クラウドソーシングサービスを発注側として使ってみました

もう数ヶ月前のことになりますが、クラウドソーシングサービスを発注側として使ってみました。クラウドソーシング(crowdsourcing)とは、仕事を担う人と仕事を発注する人を結びつけるシステムのことです。カタカナで表記すると "クラウド" ですが、"cloud(雲)" ではなくて "crowd(群衆)" です。簡単に書くと自社で抱えている人材だけを利用するのではなく、世の中に存在している様々な力(才能・労働力)を利用して、「目的」を達成する仕事のやり方とも表現できると思います。

今回は新サービスのロゴの作成をお願いしましたので、その時に感じたことなどを書いていきます。

もともと知人にデザイナーをやっている人がいるため、これまでのデザイン系の仕事は知人のデザイナーにお願いをしていました。でも、デザイナーさんには作風というものがあって、今回目的としているサービスとは少し雰囲気が異なるんですよね。そこで、周囲の人とは少し異なるセンスを求めてクラウドソーシングのサービスを利用しました。

仕事の発注はとても簡単です。想定している利用場面・顧客層・サービス内容などを箇条書きで提示しただけです。今回は私の知人では手に入らないセンスを求めていたため、色や形など具体的な要望はあえて書きませんでしたが、もし既存のロゴなどがあって、それを今風に変更したいという案件であれば、その目的に応じて対応してもらえると思います。期間は3週間で設定したのですが、実際には2週間くらいで十分な品質を持った作品が提案され、最終的にはその中から作品を採用しました。当初の目的であった "周囲の人とは異なるセンス" を得ることができ、価格・品質の両方で満足する結果が得られました。

さて、今回の結果だけ見れば満足度は非常に高いのですが、これからも利用し続けるかというとちょっと考えてしまう点もあります。

今回私が利用したサービスは明示しませんが、日本でクラウドソーシングサービスを提供している会社に、クラウドワークスとランサーズという企業があります。この二社の利用規約で気になった点を挙げてみましょう。

第5条 本サービスの内容
15. 会員又は過去に会員であった者は、会員又は過去に会員であった者と、本サービスを利用せずに、直接に業務委託契約を締結すること及びその勧誘をすることを行ってはならないものとします。但し、弊社が事前に承諾した場合はこの限りではありません。

第21条  規約違反への対処及び違約金等
5. 利用者は、利用者が第5条第15項又は第12条第6項に違反した場合、違約金として、当該取引の報酬額に対するシステム利用料相当額か金100万円のいずれか大きい方の金額(当該取引の報酬額に対するシステム利用料相当額の算定が不可能な場合は、金100万円)を弊社に支払うものとします。

クラウドワークス利用規約【クラウドワークス】〜(2013/09/01時点の情報)

第24条 本サイトの取引に関する禁止事項
1. 弊社は、全てのユーザが法令に則って安全且つ快適に仕事の取引を行って頂くために、ユーザに対し、以下に関連する行為を禁止します。ユーザが以下に該当する行為を行った場合、弊社は、その故意・過失であるかにかかわらず違反行為とみなすことができるものとします。
(12) 本サイトを介さずに行う直接取引やそれを勧誘する行為、又は、勧誘に応じる行為。(本サービスで取引開始をした会員と再度取引する場合を含む)

2. 会員が第24条第1項第12号に違反し、本サービスを介さずに直接取引(直接取引を誘引した場合、または直接取引の誘因に応じた場合を含む)をした場合には、会員は前項に定める損害賠償金とは別に、違約金として、当該行為がなければ支払われていたと推定される第10条で定める弊社手数料の2倍に相当する金額(その額が100万円に満たない場合は100万円)を支払うものとします。

利用規約 | クラウドソーシング「ランサーズ」〜(2013/09/01時点の情報)

簡単に書くと、「過去に1度でも取引をしたことがある相手と直接取引すると、最低でも100万円もらいます」ということです。なんじゃこりゃ。

クラウドソーシングサービスの登録者の中には、多くのフリーランスの人がいます。この人たちと接触する機会は、個別のクラウドソーシングサービスのシステム内だけでなく、様々な機会があります。ところが、利用規約の文面だけから受け取るならば、このような取引も禁止事項に該当してしまいます。これは将来の活動に対して、大きな制約をかけてしまうことになります。「最終取引から1年以内」など、合理的な期間が設定されているなら話は変わってくると思いますが、現状のままでは大変危険な規約です。

今回は発注側として利用しましたが、普段は作る側の立場ですので、そちらの視点から見ると権利関係でも揉める要素があります。

第14条  本取引の成果物等に関する知的財産権及びその利用
1. 本サービスを通じてメンバーがクライアントに対して納品した成果物に関する著作権等の知的財産権は、本取引の業務が完了するまでの間はメンバーに帰属するものとし、本取引の業務が完了した段階でクライアントに移転・帰属するものとします。
 本取引の中において別途取決めがある場合は、同取決めを優先します。

クラウドワークス利用規約【クラウドワークス】〜(2013/09/01時点の情報)

第14条 タスク方式における会員間の取引
タスク方式の場合、クライアントがランサーの行った作業の承諾をし、支払確定を送信した時点で、承諾したランサー間との契約が成立します。この場合の契約は、当該クライアントとランサー間で特別な合意がない限り、クライアントが選択した成果物の著作権等すべての譲渡可能な権利の譲渡契約とします。

利用規約 | クラウドソーシング「ランサーズ」〜(2013/09/01時点の情報)

どちらのサービスも個別に契約すればよいだけですが、著作権関係はよく揉める部分ですので注意が必要です。

私が関わっている仕事でも、発注者に対してすべての著作権を譲渡するという仕事は少なくなってきています。これは、製作者や開発者が権利を保有している著作物だけを使って、(現実的な予算と期間で)最終成果物を作ることが困難になっているという事情もあります。

例えば、システム開発案件の場合、ほとんどのシステムでオープンソースのプログラムを利用しています。当然、これらのプログラムは開発者が権利を保有しているものではありません。デザイン案件の場合にも、フリー素材を使う機会が多くなっています。これらも製作者が権利を保有しているものではありません。これだけでなく、開発・制作側が権利を保有しているプログラムや素材を、他の案件に流用するということはよくあります。「南国の写真を使いたいから」という理由で、案件ごとに南の島までカメラ持って撮影に行くことは現実的に難しいですよね?(一部雑誌などでは、たった1枚の写真のために行っているようですが。)


今回は利用規約の面からクラウドソーシングサービスにダメ出しをしてみましたが、クラウドソーシングは個人的に非常に期待しているサービスなんですよね。会社に行かなくてもお金を稼ぐ手段があるというのは、仕事を受ける側にとって、とてもありがたいことです。発注側の視点で見ても、自社や周囲には無かった才能と出会う機会を得られるという点において、単に労働力を得るという以外に大きなメリットがあります。ただ、現状ではそれらの仕組みが持続的に回っているとは感じられません。

次回は、「こんな仕組みがあったらいいな」という点について書きたいと思います。