日本に大学は多すぎる?

田中真紀子大臣がやらかしました。結局1週間で元の状態に戻りましたが、こんなことをやっていたら日本の信用がどんどん低下していきますよね。政権が変わったり大臣が変わったりしただけで、これまでの約束が反故にされるようでは、誰も長期的なプロジェクトに投資しようと考えなくなってしまいます。さて、この議論の中で、「日本に大学は多すぎる」という意見が出てきました。みなさんはどのように考えますか?

結論から言うと、私も日本に大学は多すぎると思います。
でも、学生の数はもっともっと増やして良いと思います。

大学が多すぎること(≒学生の数が多いこと)が、高等教育の質の低下に繋がっているかというと違うと思います。大学の数が高等教育の質の低下を招いているとすると、それは大学の学生定員が増加していることが原因ではなく、高等教育を行うにあったって適切ではない人材が教育を行っていることが原因です。つまり、大学の学生の定員が多いことが問題なのではなく、大学の教員の定員が多いことが問題なのです。これは、大学の先生のレベルが低すぎるということを言いたいわけではありません。研究者として求められる能力と、教育者として求められる能力は全然違うと思うのです。「優秀な研究者でありながら、優秀な教育者である」というのがそもそも無理な話で、普通はどちらか一つで十分です。今の大学は少し複雑な役割を担っていると思うんですよね。研究機関として成果を出し続けなければならないのと同時に、学生を教育して社会に送り出していかなければならない。この全く異なる役割を同じ人に行わせることに無理があるのです。

今回のは田中大臣の発言を受けてのエントリなので、研究機関としての大学ではなく、高等教育機関としての大学について書いていきます。


大学が多すぎると考える一番大きな理由は、大学の運営がとてつもなく非効率だからです。もっと大学を統合して効率的に経営すれば、必要なコストは抑えることができるんじゃないかと思います。それぞれの大学が広大な土地を用意して、立派な校舎を建てて、どこの大学にも共通して存在している設備を整えるくらいであれば、複数の大学を統合して一つにすると、共通設備は一つで足りてしまいます。特に単科大学であれば三校でも四校でも統合してしまえば良いと思います。これほどまでに統合による経済効果が大きい産業って珍しいと思います。これが大学が多すぎると考える理由です。

そして学生の数をもっともっと増やしても良いと考える理由。

1. 日本ってどんな社会を目指しているんだっけ?

教育を考える時、日本がどんな社会を目指しているのかを考えなければなりません。戦後から高度経済成長期であれば、とにかく現場で働く人が必要でした。貧弱な社会基盤を充実させ、経済的な発展をするために輸出産業を充実させ、そしてそれらを支える人を育てる。このような社会は、高等教育機関による教育よりも、現場による経験が重要でした。そもそも高等教育機関も少なかったですからね。そして日本は目標通りに社会基盤も充実し、経済的にも発展しました。

で、これから日本はどうするんでしたっけ?

もっともっと社会基盤を充実させるために、公共工事に従事する人を増やすのかな。輸出産業を支えるために、安価な労働力をたくさん世の中に送り出すのかな。違いますよね。
体系的に学問を学んで、新しい仕組みを作り出す人が必要なんですよね。そういう人を社会に送り出すためには、高等教育機関で教育を受けた人が必要なのです。だから、もっともっと学生を増やしたほうが良いのです。

2. 必要なのって経歴?それとも能力?

未だに学閥というものが跋扈している企業もありますが、私がこれまでに所属した企業では、同僚や上司や部下がどこの大学出身であるか興味はありませんでした。仕事を進める上で、そのようなものは関係無いからです。その人がどのような能力を持っていて、これから何ができるのかが重要だからです。きっと世の中全体としても、「○○大学卒という経歴」よりも、「何ができるのかという能力」を重視するようになっていくでしょう。

これからの日本に必要なのは、新しい仕組みを作り出す能力を持った人材です。決して「○○大学卒という経歴」だけを持った人ではありません。このような能力を持った人材を増やすためには、高等教育機関で体系的な教育を受けた人が必要です。

学生の質を一定以上に保つことを実現するための手っ取り早い方法は、成績の下位に所属する学生を切ってしまうことです。でも社会全体で見れば、裾野を広げることはとても重要です。裾野が広がれば、頂上のレベルも自然と上がってきます。

現在、貧困や格差の固定化が社会問題になっています。大学の定員数を絞ることで学生の質を保とうとするならば、貧困や格差の固定化を加速する原因にもなってしまいます。そういう点においても、学習意欲が高い学生には、高等教育を受ける機会を広げたほうが良いと思うのです。