仕事で死ぬということ

大人になってから知り合った人たちは、自分と同じような価値観を持っている人が多い。大学で知り合う人たちは、好きな分野や家庭の経済状況が似てくるし、会社で知り合う人たちは、公務員・大企業・中小企業を含めて、周囲に似たような人たちがたくさん集まる。


小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕: 37シグナルズ成功の法則

小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕: 37シグナルズ成功の法則

  • 作者: ジェイソン・フリード,デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン,黒沢 健二,松永 肇一,美谷 広海,祐佳 ヤング
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/01/11
  • メディア: 単行本
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「小さなチーム、大きな仕事」という本を読んだ。
私が働いている業界もWeb関連の業界だし、この本に書かれているようなノリで動いている部分もある。だから書いている内容も理解できる。

多くの人たちは、自分が所属している業界が世間の常識だと考えてしまいがちだけど、我々の業界は世間一般から見るとかなり特殊だと思う。インターネットを激しく使っているとか、会社に出社しなくても業務を進めることができるとか、一日の半分以上の時間をPCに向かって過ごしているとか、突然徹夜業務が発生してしまうとか。この本に書かれているように、「後でやれることは、後でやればいい」という意識で進められる点もその一つだ。

このようなノリで仕事を進められる理由は、Web関連業界の仕事で「人が死ぬことがほとんどない」という点が大きな理由なんじゃないかと思う。


最近、小学校の時の友人と食事をする機会があった。それぞれ、いろいろな業界で働いているんだけど、そのうちの一人は大きなプラントで働いている。彼の仕事はシフト制だし、残業もほとんどない。だけど、人間が直接近づいただけで即死できるような材料が、職場の机の数十メートル先に保管されている。もちろん厳重に保管されているけど、事故や災害で保管容器が破壊されてしまうと、職場の全員が即死してしまうかもしれない。彼は高校卒業と同時に働き始めたので、もう20年くらいそのような環境で働いているわけで、そのような職場で長年働いていていたため、仕事に対する意識が我々とは全く違う。ちょっとした油断やミスが命に関わるのだから。

ちょっとした油断で即死するのは極端な例かもしれないけど、体の一部を切断してしまったり後遺症が残ってしまうことが起こりうる職場は、意外と世の中に多い。私の親戚でも、ちょっとした油断で指を切断してしまった人もいるし、同僚のちょっとした油断が原因で死ぬまで片足が不自由になった人もいる。それに対して、Web業界では、プログラムにバグがあっても誰も死なないし、コマンドを打ち間違えたって後遺症が残ることはない。だからこそ、「スピード」を追求できるんだと思う。だけど、その価値観を世間一般にも適用しようとするのは控えたほうがいい。どちらが正しいとか間違っているとかではなく、そもそも価値観が違うのだから、分かり合えるとは思えないし、価値観を同一にする必要性すらない。


少し前に、東京で大雪警報が出たけど雪が積もらなかったことがあった。この時のJR東日本の対応に批判が殺到したけど、これも「お役所仕事」という一言では片づけられないと思う。彼らの職場は「人が死ぬ」職場なのだから。利用者だって、「もし何か問題が発生したら何人か死ぬかもしれないけど、スピード重視で運行しますね。多分大丈夫だと思いますけど。」とか言われても利用するのかなあ?

ちなみに、大雪警報の日は午前中の用事を全て振り替えて、昼まで自宅で仕事をしていました。安全に目的地まで辿りつけるとは思えなかったから。
こういう対応ができるのも、Web業界で働いている特権ですね。