上流・下流という言葉

先日、ある大企業のグループ会社の方の講演を聴く機会がありました。その方はプロジェクトマネジメントに関するコンサルティングを専門にしているということで、講演の内容もプロジェクトマネジメントに関することでした。その中でちょっとだけ気になった点がありましたので書きたいと思います。

IT業界の中でもSI(システムインテグレーション)と呼ばれる業務に従事している方であれば、"上流"と"下流"という言葉を聞いたことがあると思います。上流というのは、"上流工程"の略で、お客様が実現したいことを引き出して、どのようなシステムを開発するかという要件定義を行う仕事のことです。逆に下流というのは、"下流工程"の略で、プログラムを作成したり必要な機器を設定して動くモノを作り上げていく仕事のことです。この上流と下流の間にも様々な仕事があり、"上"に行くほど抽象的なものになり、"下"に行くほど具体的なものになります。

ところで、なぜ"上"とか"下"とか言うようになったのでしょうか?これはシステム開発モデルの一つである"ウォーターフォールモデル"から来ているのだと思います。ウォーターフォールモデルは、最初に "要件定義" と呼ばれる抽象度の高い工程を行い、その後 "業務設計"、概要設計"、"詳細設計"、"プログラミング"、"テスト"、"運用"という工程を進めていきます。この様子が、まるで水が上から下に流れるように進めていくことから名付けられました。"上"にある工程が完了すると次の工程に進み、"下"にある工程に進んだ後には、基本的に"上"の工程に戻ることはありません。ソフトウェア開発モデルとしては昔からある、非常に古典的なモデルです。最近では、ウォーターフォールモデルは時間がかかる(=お金がかかる)という理由から採用されないことも多く、アジャイルなどの反復モデルが利用されることも多くなっていますが、相変わらず上流・下流という言葉は根強く残っています。

そしてSI業界では上流工程を大企業が高値で受注し、下流工程を中小企業に安値で発注するという業界構造ができています。

話を戻すと、この講演者は「下流工程の会社に○○をやらせる」「下流工程なんて〜」という言い方を頻繁に使っていました。どうやらプロジェクトマネジメントを含めた上流工程を担当する方の中には、上流をやる人=偉い人、下流をやる人=製造機械、という意識があるようです。ビジネスとしてお付き合いしている会社の人に対して「やらせる」という言い方をする人は"普通"いませんよね。(もし、そのような言い方をしている人がいれば考え方を改めたほうが良いですよ。他社の方はあなたの部下ではありませんからね。)

しかし、残念なことにこのような感覚を持った人は少なくないようです。これまでの経験を振り返って見ると、このような勘違いをしてしまっている方に何人もお会いしました。

そこで私が思ったのは、「上流・下流という言葉自体に、人を勘違いさせる要素があるんじゃないかな」という点です。残念なことですが、"上"と"下"という漢字にはそのような意味が含まれているのです。
もし、これが"右工程"とか"左工程"とかいう言葉であったとすると、このような問題は無かったのではないかと思います。

他者の仕事を蔑むような意識がある人を見ると、人間としての魅力を感じることができず、非常に残念な印象を抱いてしまいます。そして、それは日常使っている言葉の中に含まれている意味を、無意識のうちに受け取ってしまっているのではないかということです。もし、あなたが"上流工程"を担当しているのであれば、特に注意することです。勘違いの種は意外なトコロに埋まっているものです。