行動履歴分析が売上を減少させる (かもしれない)

"ビッグデータ"というのがバズワード化してきました。
ここでのバズワード化というのは決して悪い意味ではなく、ある技術が世に出る時に必ず通る道のようなものです。ハイプ曲線の「過剰な期待」に向かっているところとも言えます。今年後半から来年にかけて落ち着いてくることを期待しています。
このような時期には「とりあえず手を付ける」という企業が増えてきます。そのような企業が陥ってしまいがちな罠について書いていきます。私の個人的意見を元にした仮説ですので、事実かどうかはわかりません。

ビッグデータの適用事例として代表的なものの一つが行動履歴分析と、それを元にしたレコメンド(商品紹介)機能です。ビッグデータの活用事例として行動履歴分析を行う動機としては、以下のような点を挙げることができます。

  • 手っ取り早く手に入れることができるビッグデータアクセスログである
  • Amazonを代表とするECサイトの多くで、他の利用者の行動履歴を分析した結果からレコメンド情報を掲載しており、乗り遅れたくない
  • Amazonが成功しているので、自分たちも成功するはずである

しかし、自分たちが売ろうとしている商品特性を意識することなく、このような動機で行動履歴分析を元にしたレコメンドをすると、売上が緩やかに減少するのではないかというのが私の意見です。

Amazonは知っての通り、書籍・CD・DVDを主な商品として取り扱っています。マーケットプレイスを通して、書籍・CD・DVDの中古品だけでなく、家電や家具などの商品も購入することができます。特に書籍・CD・DVDは、商品種類が莫大であるため、消費者が知らない商品が多数存在しています。販売者は、消費者がまだ知らない商品を紹介することで、購買機会を増やすきっかけを与えることができます。また、ユニクロ無印良品のように、扱っている商品単価が安い場合にもレコメンド機能は有効です。「ついで買い」「まとめ買い」の機会を増やすきっかけとなり、客単価を上昇させることが期待できるからです。しかし、販売者から見ると、消費者に対してどのような商品をレコメンドすれば良いのかわかりません。さらに、このような事業者が扱っている商品数は莫大であるため、人の手でレコメンド商品を設定することは、コストを考えると有効な手段ではありません。そこで、他の利用者の行動履歴が参考になるのです。ある商品を閲覧した利用者が閲覧(または購入)した他の商品を提示することで、販売機会を増やすことができるのです。

つまり、行動履歴分析を元にしたレコメンドが有効に機能するのは、「販売機会を増やすことが、売上に直結する商材を扱っている」ということです。


私は現在の消費者の消費行動にも注目しなければならないと考えています。現在は大量消費の時代ではありません。消費者は自分が欲しい商品を、できるだけ安価に購入することを求めています。その結果、「様々な商品を見て回ったが、最後は最も割安な商品を購入する」という行動を取るのです。

代表的な例として、旅行等を始めとする「自分へのご褒美系の商品」が当てはまると思います。現在ではグルーポンを代表するフラッシュマーケティングサイトで販売されている商品を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。
このような商品は、消費者が月に○回まで、または年に○回と決めて購入するものです。販売機会はほとんど変化しません。このような商品に対して行動履歴分析を元にしたレコメンドをすると、先に書いた「最も割安な商品」をレコメンドしてしまいます。さらに事業者視点で厄介なのは、

「最も割安な商品をレコメンドされて購入した消費者の行動が、さらに次の消費者へのレコメンドにフィードバックされる」

ということです。この結果、売上が緩やかに減少するという負のスパイラルに陥ってしまいます。私はかつて小売業で働いた経験がありますが、売上が「緩やかに」減少した状態から元に戻すことは、急激に減少した場合に比べ、非常にたくさんの知恵と労力が必要となることを身をもって感じています。

「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」

行動履歴は「経験」です。売上をアップさせるためには「歴史」に学ばなければなりません。その点こそ、ビッグデータを利用した機械による分析ではなく、人間の知恵を投入するべきポイントなのです。

※今回の内容は、事業者自らが消費者に対して商品を販売していることを想定しています。広告モデルや仲介モデルのように、販売事業者からの広告費によって成り立っている場合を想定していません。これは、たとえ提示している商品がマンションのようなものであったとしても、そこで売っているのはマンションそのものではなく、消費者の行動を販売しているからです。