リクルートは大企業になってしまうのか

世の中で活躍している人の中で、前職の会社名を前面に出して活動している人はそう多くいません。リクルートはそういう数少ない会社の一つです。(もう一社挙げるなら、それは電通です。)
「元リクルート」という肩書が、現在の仕事で価値を持つということは、リクルートという会社にも、それだけの価値と魅力があるということです。そしてリクルート自身も、そのように活躍している人を応援しているように見えます。普通の会社だと「勝手に名前を使うな!!」と文句を付けるか、せいぜい「黙認」といったところでしょう。そういった意味でも、この会社には特殊な文化があるのだと思います。

そのリクルートが2012年1月5日のプレスリリースで分社化を発表しました。

リクルートグループは、時代の変化や人々のニーズに合わせて、人材・住宅・結婚・旅行など様々な領域で新しい価値や出会いを生み出してきました。当グループが展開する事業領域においては昨今、ネット技術の進化やグローバル化など変化が激しく、またご利用いただく生活者・企業のニーズも多様化しております。そのような経営環境を踏まえ、今後は各領域においてより迅速な意思決定を行っていくことが不可欠と判断し、会社分割によるグループガバナンス体制の変更を行います。

グループガバナンス体制変更についてのお知らせ | RECRUIT−リクルート−

当事者が発表したプレスリリースの内容を、そのまま正直に受け取ることはありません。きっと隠された意図もあるのだと考えてしまいます。


多くの場合、組織が大規模になると、組織管理ができる規模に細分化していきます。官公庁や大企業は細分化が行き過ぎてしまい、縦割り構造になっています。縦割り構造になってしまった組織は、動きが鈍くなり、無駄が多くなり、事業スピードが遅くなります。日本の大手メーカと呼ばれる企業が、現在どのような状況に陥っているのかを見るとよくわかります。そのようなことがわかっているにも関わらず、何故リクルートは縦割り構造の中でも、線引きが明確な分社化という方法を取ったのでしょうか。しかもプレスリリースに書かれている内容から想像すると、人材交換を積極的に行っていく方向ではなく、各組織におけるスペシャリストを育成することを目標としているようです。つまり目指す方向は個別最適だということです。

最も考えられる理由は、

「とりあえず分社化しておいて、ほとぼりが冷めたら不採算部門を売却するかリストラする」

というものです。

近年の不況のため、転職市場や新規採用市場は悪化しており、リクルートの社名にもなっている人材採用事業は厳しくなっていることが想像できます。さらに、この状況が改善する様子は全くありません。対して不況に強いと言われる結婚をテーマにした「ゼクシィ」や、ある一定の市場規模が見込める住宅販売事業である「スーモ」は、同一カテゴリの媒体の中では業界トップの座におり、他のカテゴリに比べて比較的好調なのではないかと思います。「未婚率も上がっているし、住宅を買える人も少なくなっているのではないか?」という疑問を持つ方もいると思います。ここで注意しなければならないのは、リクルートはこれらの商品を販売している企業ではなく、これらの商品を販売している企業からの「広告」を収入源としている企業だということです。商品が売れようが売れまいが、出稿してくれる企業がある限り収入を得ることができます。*1


そしてもう一つ考えられる理由は、

「もはやリクルートは以前のような企業文化ではなく、普通の大企業になってしまったのではないか」

ということです。
この答えはすぐに出そうです。今後「元リクルート」と名乗る人が少なくなったとすると、そういうことを意味しているのだと思います。

上に書いた内容はすべて想像ですので真相はわかりません。しかし、企業が大きくなり、その行きつく先が一つなのだとすると非常に残念です。今後の展開をもう少し見守りたいと思います。
次回も特定企業について取り上げます。

*1:広告モデルは在庫リスクが無いため、短期的に倒産するリスクは少ないのですが、業界全体が縮小傾向にある場合には、緩やかに倒れていくという特徴があります。