ビジネス本と自己啓発本は用法と用量を守って正しく読みましょう

書店に行くと、ビジネス本や自己啓発本の多さに驚きます。
以前からこんなに並んでいたのに私の視界に入っていなかったのか、それとも本当に増えたのかわかりません。しかし、全ての本が「ビジネスマンはかくあるべし!!」「24時間働いて世界を動かす!!」のような内容だけではなく、心が弱ってしまった人向けの本などが増えた点を見ると、以前に比べて種類は確実に豊富になっているように感じます。

どの書籍にも言えることですが、著者は「このような人に読んで欲しい」という読者を想像して執筆します。技術書であれば、最初の章あたりに「想定する読者」を明確に記述しています。技術書は、理解するために必要な前提知識が明確であり、その前提知識が無い人が読んでも全く理解できないからです。これは“名著”と呼ばれる本であっても同様です。書き手も読み手も「こんなはずではなかった」という不幸を避けるためにも、想定する読者を明確にすることはとても大切です。

ところが、ビジネス本や自己啓発本が書店に並ぶとき、想定する読者は非常に曖昧になります。すべての本が同一に扱われ、売れるか売れないかによって陳列方法に区別が付けられます。大きな書店に行くと、時期によって特設コーナが設けられ、「新社会人向け」や「就職活動中の学生向け」などと明確になっていることもありますが、その機会はさほど多くありません。ビジネス本や自己啓発本の多くは、年齢、組織の中での役割、自分の性格、業界、時代背景が前提条件となり、想定する読者が大きく異なります。困ったことに、前提条件から外れたこの類の本は、却って有害でもあるのです。

例えば、

Aさん:30代会社員で、これまでたくさんの仕事を経験、失敗も成功もたくさん体験してきて、今後は管理職になって部下を持ちたいと思っているが、今一歩のところで伸び悩んでいる

と、

Bさん:20代会社員で、新卒入社1年目、仕事の経験がほとんど無いため、失敗も成功も体験しておらず、学生生活と社会人生活のギャップの大きさに悩んでいる

が同じ本を読んでも、両者にとって有効な答えが得られるとは思えません。同じ会社員であったとしても、AさんとBさんの前提条件は大きく異なっているからです。そして、仕事に対して前向きであればある人ほど、少し背伸びをしたくなるものです。この結果、ただでさえ想定する読者のズレがある中で、そのズレをさらに広げることになるのです。仮にAさんのような人を想定した本の内容をBさんが実践してしまったとしたら、きっと組織の中で孤立してしまうことでしょう。場合によっては取り返しのつかない結果になることもあります。このようにビジネス本や自己啓発本は劇薬なのです。読むときには、「自分がその本の前提条件に入っているか」を冷静に見極めることが必要でしょう。

しかし、自己啓発本に頼ってしまう人はきっと冷静に前提条件を見極めることができません。冷静に見極める能力があるなら、そもそも自己啓発本は不要であり、本に書かれている内容を本当に実践してしまうような愚かな行為はしないでしょう。自分の頭で真剣に考えて結論を出すと、たとえその結果が間違えていたとしても、それは確実に成長に繋がります。自分の頭で考えることを諦めて、安易に自己啓発本に手を出してしまうその行動を改めることから始めましょう。*1

*1:それでは、ここに書かれている内容も信じて良いのでしょうか?それも自分の頭で真剣に考えてみましょう。