ベンチャー企業が大企業に勝つ方法

タイトルは若干釣りです。
私は東証一部に上場している大企業に、数年間所属していた経験があります。辞めましたけど。
そこで学んだことは、

ベンチャー企業が、大企業と同じ土俵で戦っても勝てない」

ということです。これを身をもって知ることができただけでも、大企業で働いた価値があるかもしれません。(他にも学んだことはたくさんありますよ。)


少し前の話になりますが、食品卸大手企業がイオンに対してビールを原価割れで納入していたというニュースがありました。この件に関してはイオンは反論していますが、大手企業が持っている流通チャネルの大きさを考えると、商社やメーカが沈黙するのも理解できます。結局は持ちつ持たれつの関係なんですよね。私が勤務していた会社でも、詳細は書けませんが、信じられないくらいの価格で製品を仕入れることができていました。その価格は、その辺の中小零細企業が努力したってとても叶わないくらいのレベルです。大企業は、多額の販売費や管理費等の間接費がかかったとしても、仕入価格だけはどうしようもないくらいの価格優位性を持っているのです。だから、一般市場で流通している商品を、「最近起業しました」みたいな会社が取り扱ったところで、とても価格では敵わない。仕入だけでなく、物流部分についても規模の原理が働くから、配送価格だって敵わない。だから、仕入が伴う商売にベンチャー企業が参入しても勝てない。もし本気で勝負をするつもりなら、数十億とか数百億の現金を積んで勝負しないと絶対に勝てない。


ここは議論があるところですが、大手家電量販店が街の電気屋さんを潰したということが言われています。大手家電量販店は「低価格こそ正義である」というルールを作って勝負をしました。大量仕入・大量販売を約束することで、仕入価格に対する発言権を獲得しています。結果的に、街の電気屋さんではとても敵わない価格で商品を販売することができるようになり、街から電気屋さんは無くなっていきました。しかし、ここでAmazonが登場します。外資系企業でありながら、本やDVDといった商品をメインで扱いつつ家電販売にも参入してきました。Amazonは「低価格こそ正義である」というルールの中に土足で殴りこんできて勝負を仕掛けてきたのです。これまで低価格で販売するためには、集客するための実店舗と顧客対応するための店員さんが必要でしたが、AmazonはITを使ってそれらの設備を最小限に抑えて運営しています。今のところ仕入価格に対するAmazonの交渉力は、大手家電量販店ほどないと思いますが、今後はどんどん交渉力を付けていくことでしょう。

しかし、Amazonは"結果的"に「低価格こそ正義である」という土俵で勝負をすることになりましたが、特別にそれを目指したのではないと感じています。Amazonの営業さんとお会いする機会があったのですが、彼らの考えていることは「世界で最もお客様を大切にする企業になる」ということです。徹底して顧客志向なのです。Amazonでの販売価格は、価格.comで調べても決して最上位ではありません。でも、顧客が満足する価格で、顧客が満足する納期で、顧客が満足する品質で商品を届け、もし不満があったら返品を受け付けるという姿勢です。だから、決して「低価格こそ正義である」というルールで戦っているわけではないんですよね。あくまで「結果的に低価格になった」というだけで。もし顧客が価格よりも大切な価値観を持つようになったら、販売価格は上昇していくかもしれません。

Amazonは海外で稼いだ豊富な資金を持ち込んで参入してきたため、これから起業するベンチャー企業と比べるのは無理があります。しかし、これまで「低価格こそ正義である」という業界における勝負のルールを変える力を持ちこんできたことには、大きな意味があります。

ベンチャー企業で大企業に勝ちたい」

この考えを持った時、既に大企業と同じ土俵に乗り、大企業の作ったルールで勝負をしてしまっていると思います。彼らに有利なルールで戦っても、勝てる可能性はうんと小さいでしょう。
新しい土俵と新しいルールを作ることが、これからのベンチャー企業に求められていることなのかなぁと漠然と考えています。