サービス残業がダメな理由

サービス残業を生む土壌 (※弊社の場合) - ITエンジニアの社会学」でサービス残業に関する問題を取り上げました。
今回は「サービス残業がダメな理由」を、私の視点で書きます。

一般的にサービス残業とは、「勤務しているにも関わらず、その労働対価(残業代)が支払われない時間外労働のこと」です。
それでは残業代が支払われれば問題は無いのでしょうか?


この議論をする前に留意しなければならないのは、「長時間労働と労働者の健康悪化に相関関係がある」ということです。一般的な数値になりますが、一カ月の時間外労働が45時間を超えると、労働者の健康を害するリスクが高くなります。一カ月の時間外労働が80時間を超える勤務が複数月にわたって連続した場合、または一カ月の時間外労働時間が100時間を超える勤務を行った場合、労働者の健康を害した原因が長時間労働であると認定されることが多くなるようです。これらは、仕事の種類や労働形態にもよるため、全ての労働者に対して同一に適用できる基準ではありませんが、長時間労働と健康が密接に関係していることを示しています。

そこで労働者の健康を守るために、長時間労働を抑制しようという動きが出てきました。従来、時間外労働の割増賃金は通常勤務時の1.25倍でした。このままだと、経営者は時間に比例した賃金を支払えばよく、労働者個人の長時間労働を抑制する動機になりません。このため、改正労働基準法が2010年に施行されました。この改正のポイントは以下の通りです。

  • 月45時間までの時間外労働 → 従来通り1.25倍
  • 月45時間〜60時間までの時間外労働 → 時間短縮・割増賃金率を引き上げるように、労使間で努力する
  • 月60時間以上の時間外労働 → 1.5倍(ただし、有給休日付与で代替することも可能)
  • 5日分の有給休暇を時間単位で取得可能

ここから見てとれるように、あくまで法改正の目的は長時間労働の抑制です。長時間労働が原因で健康を害する事例が多くなったことから、経営者対して個別の労働者の長時間労働を抑制するための動機付けを行っているのです。しかし、ここでも誤ったメッセージが世間に広まってしまいます。

経営者:「事業が厳しいのでお金を払いたくない」
労働者:「お金は欲しいが、申請すると会社から嫌われるかも」

本来であれば労働者の健康を保護することが目的なのですが、経営者も労働者も「お金の問題」に置き換えてしまっているのです。この問題は労働者も自らの健康を守るために努力しなければならないのですが、特に労働組合がある組織の場合、労働者の当事者意識が小さくなり、お金の問題にすり替わることが多いのです。結果的に経営者も労働者も、時間外申請を行う動機が小さくなり、サービス残業が発生してしまうのです。そして、サービス残業長時間労働を誘発するのです。


サービス残業は実態と記録を乖離させてしまう行為です。実態と記録が乖離してしまうと、正しく管理することができず、長時間労働が横行する環境を作り上げてしまい、結果的に健康を害する労働者が発生してしまいます。これが、私が「サービス残業はダメ」だと考える理由です。

サービス残業はお金の問題だけではありません。労働者の健康を悪化させることも大きな問題の一つなのです。
労働者の健康を維持し続けるために、経営者の努力はもちろんのことですが、労働者も努力しなければならない問題なのです。